「努力すれば夢は叶う」
「センスは磨けば光る」
学校やテレビは、私たちにそう教え続けてきた。
なにより私自身の前回のブログ(【過激な自己分析】「性格」なんて存在しない。あるのは「システム」だけだ ――人格心理学が暴くあなたの正体)でこう述べた。
それは、「人間は変われる」という希望を誰もが願った時代とも言える。
翻って、現代はどうだろうか?
「親ガチャ」という言葉に逃げ、自分の人生を遺伝子や環境のせいにして諦める風潮が強まっているのを感じないだろうか。
そのような時代だからこそ、人格心理学は教えてくれる。人間は、環境に支配されるだけの受動的なロボットではない。
自ら環境に意味を与え、世界を再構築できる能動的な存在である、と。
つまり、人は後天的に、努力さえすれば遺伝子や環境を乗り越えられる、という論調である。
だが一方で、日本の最高学府であるところの東京大学の学生を対象にした調査で、親の約6割が年収950万円以上であるというデータを見て、あなたはどう感じるだろうか?
参考 東大生の親の6割以上は年収950万円以上Newsweekちなみに、日本に存在する世帯で900万円以上の所得を有する割合は15.3%に過ぎない。

近年、「親ガチャ」という言葉が流行語となった。
大人たちは眉をひそめるが、社会学的に見れば、若者たちの直感は正しい。
彼らは怠惰なのではなく、「この社会のバグ」に肌感覚で気づいてしまったのだ。
あなたの趣味、思考、何気ない「センス」。それらはあなたが自分で選んだものではない。
あなたの親の年収と育った環境によって、あらかじめインストールされた「初期設定(ハビトゥス)」に過ぎない。
今回は、フランスの社会学者ピエール・ブルデュー(1930-2002)の理論を武器に、この残酷な世界の構造を暴く。
そして、ただ絶望するのではなく、この無理ゲー社会を生き抜くための具体的な「攻略法(ハッキング)」までを提示する。
これは、あなたの人生を取り戻すための生存戦略だ。
目次
1. 残酷な真実:人生は「初期装備」で決まっている
あなたは、自分が「自由意志」で生きていると思っているだろうか?
スタバで何を頼むか、休日に何をするか。その選択は、本当に「あなた」のものか?
ブルデューの理論によれば、答えはNOだ。
私たちの行動や好みは、幼少期から無意識のうちに身体に刷り込まれた「ハビトゥス(習慣的行動様式)」によって決定されている。
恐怖の「文化資本」格差
ここで具体的な話をしよう。ある2人の子供がいるとする。
- A君の家:親は大企業勤務。家にはたくさんの本があり、週末は美術館へ。幼い頃からピアノを習い、クラシック音楽がBGMだ。
- B君の家:本棚には漫画しかない(※)。テレビはずっとバラエティ番組。休日の楽しみはショッピングモールのフードコート。習い事はしていない。
20年後、彼らが大人になった時、何が起きるか?
A君は、「教養」や「マナー」といった「文化資本(見えない資産)」を、呼吸するように身につけている。
彼はビジネスの場で、難しい言葉を使わなくても「知的な雰囲気」を醸し出し、上層部の人間と「感覚」が合うため、自然とチャンスを掴んでいく。人生がイージーモードなのだ。
一方、B君はどうなるか。
彼がどれだけ必死に勉強してA君と同じ大学に入ったとしても、面接や社交の場で「何か違う」「育ちが合わない」と無意識に弾かれる。
B君は思う。
B君
違う。B君が悪いのではない。
「文化資本」という初期装備の差が、埋めがたい断絶を生んでいるだけなのだ。
この構造的暴力に気づかない限り、あなたの努力は空回りし続ける。
2. 「中学受験」という名の階級固定システム
日本で過熱する「中学受験」も、この文脈で見れば正体がわかる。
あれは単なる学力テストではない。「親のハビトゥスを子供に継承させる儀式」だ。
中学受験の問題を見てほしい。
学校の教科書だけでは解けない、高度な論理的思考や膨大な語彙力が求められる。
これをクリアできるのは、「家で親と知的な会話をしている子」や「幼少期から思考する訓練を受けてきた子」だ。
つまり、中学受験とは「我が家と同じハビトゥス(文化コード)を持っているか?」を選別するフィルターなのだ。
そこに合格した子供たちは、似たようなハビトゥスを持つ友人に囲まれ、さらに強固な文化資本を身につけ、社会の上層へとエスカレーター式に昇っていく。
誤解しないでほしい。私は中学受験を否定しているのではない。
これは、現在の資本主義ゲームにおいて「極めて合理的で、かつ残酷な攻略法」だと言っているに過ぎない。
3. スマホという「現代の檻」
さらに現代は、事態が悪化している。
メディア論の視点から言えば、スマホのアルゴリズムが新たなハビトゥスを強制しているからだ。
SNSを開けば、AIが「あなたが好きそうなもの」だけを無限におすすめしてくる。私たちは、AIによって「お前にはこれが似合いだ」と分類され、その狭い世界の中に閉じ込められている。
・思考を使わないショート動画
・感情を煽るだけのまとめサイト
これらを浴び続けることは、自ら進んで「知性」を手放し、操り人形になることと同義だ。自分で選んでいるつもりで実は「選ばされている」。
これはもはや、デジタルなカースト制度だ。
4. 【実践編】階級をハックする3つの具体策
さて、ここまで読み進めてきてあなたは絶望しただろうか?
B君
いいや。ここで終わるのならばこのブログを読む意味はない。
ハビトゥスの最大の弱点は、それが「無意識」であることだ。逆に言えば、「自覚」し、意図的に上書きすれば、運命は変えられる。
親から受け継げなかった「文化資本」は、後天的にインストール(ハッキング)すればいいのだ。
そのためにあなたが今すぐできる具体的なアクションプランを以下、3つ提示しよう。
①「違和感」のある空間に身を置く
B君のような環境で育った人にとって、静かに表現された芸術に触れ合うような美術館やクラシックコンサート、演劇の劇場などは、身の置き所がないようなそわそわする感じがするはずだ。
その場違い感、あるいは居心地の悪さこそがハビトゥスの摩擦である。そこから逃げてはいけない。その場に留まり、観察せよ。
「なぜ彼らは落ち着いているのか?」
「どんな言葉を使っているのか?」
その空間のコード(様式、立ち振る舞い方、物の見方)を観察し、模倣する。最初は演技でいい。繰り返せば、それはやがてあなたの「第二の皮膚」になる。
② 本棚を「戦略的」に入れ替える
家にある本は、あなたの脳の中身そのものである。
漫画やライトノベルが悪いとは言わない。だが、それだけではこの高度に知性化された社会では戦えない。
まずは、古典や教養書を一冊、手に取ってみよう。
難解で眠くなるかもしれない。だが、それはあなたの脳が「負荷」を感じている証拠であり、OSがアップデートされている瞬間だ。
本を購入することに抵抗があるならば、図書館に行けばいい。いや、それすら不要で、今は「図書館電子図書館サービス」が普及しつつある。
少し時間を割いて利用登録すればあなたのスマートフォンから無数の本へアクセスすることができるのである。いい時代!
コストはゼロだ。知識は、誰にでも開かれている最強の武器である。
③ アルゴリズムに抗う検索をする
最後に、スマホのおすすめに従うな。
あえて、「自分が見なさそうなジャンル」を検索せよ。
哲学、経済、現代アート。
普段見ない情報に触れることで、AIの追跡を振り切り、思考の偏りを強制的に補正するのだ。
5. 結論:知性こそが唯一の武器だ
世界は不平等だ。「センス」は親の年収で決まるし、階級は再生産される。これは社会学的な事実であり、綺麗事では覆せない。
だが、私たちは「考える」ことができる。
社会の構造を知り(社会学)、自分の無意識を疑い(精神分析)、メディアの洗脳を見抜く(メディア論)。
このブログは、そのための武器庫だ。
運命という名の檻を、知性でこじ開けろ。
親ガチャなんて言葉に甘えるな。
あなたは、あなた自身の手で、何度でも生まれ直すことができるのだから。
(結局、人は後天的に、努力さえすれば遺伝子や環境を乗り越えられる、という論調である。)
それではまた。
