【近畿大学図書館司書】児童サービス論[2022] 合格レポート

設題

1.図書館における直接(的)サービスと間接(的)サービスの意義と方法について述べなさい。
2.図書館におけるヤングアダルト・サービスの意義と実践方法について述べなさい。

解答

■序論
 本稿では、図書館における直接サービス、間接サービスの意義と方法とヤングアダルト世代へ提供すべき図書館サービスについて意義と実践方法を論じる。

■本論
1.直接サービスと間接サービスの意義と方法
まず、図書館サービスは「直接サービス(パブリックサービス)」と「間接サービス(テクニカルサービス)」に分けられる。
前者は利用者に対して直接提供するサービスを指す。言い換えれば、図書館員が地域の人々等の利用者とコミュニケーションをとるものである。具体的には、レファレンス業務(事項調査や資料収集に関する質問の処理)、読書相談、他の図書館との相互協力、情報検索、利用教育等を上げることができる。これらは利用者のニーズを直接的に満たす点で図書館利用の意義そのものである
その他、例えば、児童に対しては本の読み聞かせなどをすることで生き生きとしたやりとりを通し、本を読んだり眺めたりすること自体への楽しさを知ってもらえるところに意義がある。
一方間接サービスとは、直接サービスを提供するための前提となる裏方の業務である。つまり、図書館運営の内部に関わるすべての業務だ。厳密には受入業務と整理業務に分けられる。受入業務は、選書・発注・検収・登録・支払いという図書館資料となるまでを扱う。整理業務では、情報組織の根幹を成す「目録作業」(資料を検索するための書誌的情報の記録作成)、所在記号の付与、ラベルの貼り付け、汚損防止のためのフィルムカバー、ディテクションテープ装着などを行う。資料管理や情報資源組織のようなテクニカルサービスは利用者に意識されないものであるが、これはランガナタンの五法則の一つ「読者の時間を節約せよ。」に寄与する重要な業務である。
その他、利用者が効率的・効果的に図書館サービスを利用するための「統合図書館システム」を選定し、導入・管理したり、地震や大雨などの災害に対する倒落防止の予防措置など、見えにくいところで進行しがちな問題への対応も含まれる。

2.ヤングアダルト・サービスの意義と実践方法
「IFLA ヤングアダルトへの図書館サービスガイドライン2008年」では、ヤングアダルトを「子どもと大人の中間にいる人たち」と定義し、図書館サービスとしては「12歳から18歳までを対象としている場合が多い」とされている。
ライフサイクル論やアイデンティティ概念を提出した精神分析家E.H.エリクソンに拠れば、上記の年齢は「青年期」(発達の第5段階)に該当し、「同一性」(identity)対「役割の混乱」(role confusion)が発達課題となると指摘されている(中野,2020)。つまり、それまでに準備された「…としての自分」を自覚し、それに言葉を与え、社会的な現実の中で取捨選択、そして統合していく時期である(=自我同一性の確立)。
図書館におけるヤングアダルトサービスの意義とは、そのような他の世代とは異なる行動様式と興味を持った若者特有のニーズに寄り沿うことであると言えよう。
ヤングアダルトと一括りにしているものの、例えば12歳と18歳ではその読書能力、集中力、興味関心も全く位相が異なっているため、現実の実践においては利用者によって個別具体的にならざるを得ないことにまず留意したい。
また前提として、現代はインターネットの普及により情報探索環境が一変して久しい。人々は容易に回答が得られそうな情報要求の場合、回答入手の利便性や迅速性に勝るGoogle等の検索エンジンをまず使用する。逆に図書館およびレファレンスサービスを情報源に求めるという発想は基本的にしない。現在のヤングアダルト世代に至っては産まれた時から高度情報化社会を生きており、その傾向がより一層顕著であろう。またゲーム、スマートフォン、SNS等あらゆる娯楽が身近にあった世代だ。
それでもなお図書館へ足を運んでくるヤングアダルトは彼・彼女らなりに課題を持っているはずである。図書館職員はフロアワークによって、必要に応じて彼らの援助を行う。
具体的には、蔵書や逐次刊行物、インターネット資源を利用したり、専門機関を紹介するなどして、課題解決の方向性を見いだす手助けをする。その際気を付けたいのが、ヤングアダルトを子ども扱いしたり、求めている資料を職員側で「年齢にそぐわない」などと判断しないことである。
その他、幼少期の読書からより活字の多い読書への移行期を架橋するため、ライトノベルや漫画などを揃え、「読むこと自体の楽しさ」を指向させる取り組みも重要だろう。読書会やビブリオバトルなどで資料と利用者のみならず、友人・仲間の輪を繋ぐ場として図書館が存在することも意義がある。

■結論
図書館における直接サービスと間接サービス、およびヤングアダルト・サービスの意義と方法を述べてきた。
脇(2005)では、子どもにとって本当にいい本の条件を、「読んだそのときにためになる(なった気がする)」だけの本ではなく、後になって本離れする原因にならない本、「つまり、読む力を育ててくれる本であるべきだ」としている。
図書館職員もまた、ヤングアダルトが図書(館)離れしないようなサービスを実施していかなくてはならない。

参考資料

1.カレントアウェアネス・ポータル, CA1638- 研究文献レビュー:子どもへの読書支援と図書館サービス / 岩崎れい(カレントアウェアネス No. 293 2007年9月20日)
2.カレントアウェアネス・ポータル, CA1956 – 国際子ども図書館の中高生向けサービス:調べものの部屋と調べもの体験プログラム / 小熊有希(カレントアウェアネスNo.340 2019年6月20日)
3.子どもの読書活動の現状分析 : ヤングアダルトを中心に / 村木美紀著, 情報学4(2),2007
4.児童図書出版と図書館 : 石井桃子と図書館のかかわりから / 米谷優子 著, 情報学 9(2),16-26, 2012
5.「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の変遷と課題 / 米谷優子 著, 情報学15(2),13-32,2018
6.《Ⅳ.図書館サービス》児童・YA サービスの動向 / 井上靖代 著, 図書館界70(1),197-204,2018
7.公立図書館における児童サービスの可能性 : 子どもの貧困対策に着目して / 嶺井尚子 著, 図書館情報メディア研究 16(2),37-51,2019
8.社会システムとしてのフィルタリング問題 / 井出 明 著, 情報の科学と技術 56(10),446-451,2006
9.エリクソンの第IV段階「勤勉性」と第V段階「アイデンティティ」-児童期から青年期への移行と仮想的有能感- / 伊田勝憲 著, 心理科学 28(2)28-41,2008
10.E.H.エリクソンの人生とアイデンティティ理論 / 中野 明德 著, 別府大学大学院紀要 22 31-50, 2020
11.読む力は生きる力 / 脇明子 著, 岩波書店, 2005

講評(抄)

(1回目)
最初の設題は直接サービスの意義と方法、間接サービスの意義と方法について述べること。ここでは直接サービスと間接サービスの意義についてもう少し詳しく述べよ。
参考までに、ネットで「テクニカルサービス」と「パブリックサービス」などを参照すること。または、「図書館サービス概論」のテキスト(p.22-p.24)を参考すること。

二つ目の設題はヤングアダルト・サービスの意義と方法について述べること。ヤングアダルト・サービスは図書館によっても取り組みの温度差はあるが、とても重要なサービスである。ここはこれでよい。要点を押さえている。

(再提出後)
最初の設題はこれでよい。前回指摘した内容が改善されている。これら二つのサービスはお互いに補完しあう関係にある。参考文献を駆使して述べているのはよい。

総評:合格

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