【近畿大学図書館司書】図書館情報資源概論[2022] 合格レポート

設題

公共図書館が地域資料を収集するのはなぜかを考え、地域資料の特性と今日の課題としての地域資料のデジタルアーカイブ化について論じなさい。

解答

■序論
 本稿では、公共図書館が収集し提供する情報資源のうち、「地域資料」に焦点をあて、その特性およびデジタルアーカイブ化について論じる。

■本論
(1)地域資料を収集する根拠
 地域資料とは、「郷土資料」のことである。郷土資料とは、図書館の所在する地域や自治体に関係する資料である。公共図書館が地域資料を収集する根拠は図書館法第三条第一号の記載である。そこにはこうある。
 「郷土資料、地方行政資料、美術品、レコード及びフィルムの収集にも十分留意して、図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下「図書館資料」という。)を収集し、一般公衆の利用に供すること。」
 上記を基に現在では、その地域についての資料収集及びレファレンス質問への回答が公共図書館の重要な業務の一つとされている。

(2)地域資料の特性
 1960~1980年代までは「郷土に関係した資料」すなわち生まれ育った土地や故郷といった側面が強調されていた。しかし近年では“地域社会”と言われるように、コミュニティが重要視されるようになったことに
伴い、収集すべき資料の概念が拡大したという背景がある。
 そのような地域資料の特性は、その地域でしか入手できないローカル性にある。換言すれば“地域の人たちにとっては昔から馴染みのある文化”である。
 したがって、現在公共図書館では郷土に関係した資料以外にも、「その地域で生産された出版物」「地域在住の人が出版した著作物」「交渉伝承による言い伝え(オーラルヒストリー)」が含まれる。具体的には、地域図書・雑誌、地図、地域新聞、小冊子、点字資料、ポスター、はがき等の印刷資料がある。
 また、根本彰(1999)は地域資料を「当該地域を総合的かつ相対的に把握するための資料群と捉え、発行者として行政体と民間(出版社や団体、個人)を問わず、また主題として歴史、行財政、文学その他を問わず、
地域で発生するすべての資料および地域に関するすべての資料」(p.18)と定義している。

(3)地域資料のデジタルアーカイブ化の方向性
 デジタルアーカイブとは、原資料を所蔵している所蔵館や提供元が有形・無形の文化的資源をデジタル情報として記録し、劣化なく永久保存するとともに、ネットワーク等を介して利用者へ提供することである。
 我々が生きる現代は世界的な感染症流行により、“場”としての図書館利用に制限が生じ、その代わりとしてインターネット上の情報であるデジタルコンテンツの重要性を再認識させられている。
 デジタルアーカイブ化の方向性については、2000年に既に文科省の地域電子図書館構想検討協力者会議による報告書で提示されている。そこでは、公立図書館として優先してデジタル化(データベース化)し、ホームページ等で公開すべき地域資料の要件として
 Ⅰ.当該図書館にしか所蔵されておらず、現状のままでは消失の可能性のある資料
 Ⅱ.当該自治体に固有の情報を扱っており、消失の危険性のある資料
 Ⅲ.当該図書館に所蔵されている資料のうち当該自治体に固有の情報を扱っている著作権の消滅したもの
が挙げられている。
 上記の方向性を踏まえたうえでデジタル化していく過程で、課題も少なくない。
 例えば、デジタルアーカイブを有効に活用するためには、利用者が適切にその資料へたどり着けなければならない。資料が検索されるためには、充実したメタデータが必要である。写真や絵などは基本的にアルバム単位で保管されているが、それぞれの画像データを素材として2次利用したいと考えたとき、それらは個別に検索できたほうが便利である。そのためには「メタデータの深化」が必要となる。
 また、福島幸宏(2021)はデジタルアーカイブの無理のない構築・維持という観点から、「スリムモデル」を提示しており、そこでは以下4点の要素がある。
 ・利用規約の明示
 ・機械可読性の担保
 ・環境に依存しないデータ移行性の担保
 ・アクセシビリティの確保
これらに依拠したデジタルアーカイブであれば、運用の簡易さと利便性を両立できると思われる。

■結論
 公共図書館における「地域資料」という情報資源に焦点を当てて論じてきた。
 現代はグローバル化による制度や文化の画一性が世界規模で推し進められているので、地域資料を恒久的に収集・保存・公開していく公共図書館の意義は非常に重要となっている。加えて、AI技術の加速度的な進化に伴うビックデータの活用が盛んに論じられてもいる昨今、デジタルコンテンツの利活用方法は図書館員が想像するより遥かに広がりを持つものかもしれない。
 また、収蔵している資料のバックアップという観点からも今後益々デジタル化の必要性は増すと思われるが、実際の現場ではまだまだ進んでいないようである。例えば、私が居住している●●県の●市図書館では、現時点でわずか●点の地域資料を公開しているに留まっている。ここから、技術的にも人的資源的にもデジタル化の困難さが読み取れる。

参考資料

1. カレントアウェアネス・ポータル, CA1846 – 研究文献レビュー:地域資料サービス / 竹田芳則(カレントアウェアネス No.323 2015年3月20日)
2. カレントアウェアネス・ポータル, CA1876 – 動向レビュー:公立図書館における住民との協働による地域資料サービスの構築 / 相宗大督(カレントアウェアネス No.328 2016年6月20日)
3. 図書館資料のデジタルアーカイブとその活用を考える / 澤谷晃子 著, 図書館界 72 (3), 134-138, 2020
4. 図書館を拠点とした地域資料の編集とデジタルアーカイブの発信 / 是住久美子 著, 図書館界 72 (4), 184-188, 2020
5. 図書館の未来像のひとつとしての地域資料活用 / 福島幸宏 著, 図書館界 72 (5), 223-227, 2021
6. 地域資料入門 / 三多摩郷土資料研究会編,根本彰[ほか]/ 日本図書館協会,1999, p.18
7. 2005 年の図書館像−地域電子図書館の実現に向けて− / 地域電子図書館構想検討協力者会議. 文部省, 2000
8. ●市立図書館 デジタルアーカイブ
  https://●●(2022年6月28日参照)

講評(抄)

1,2,3と見出しについて順序立てて記述できている。内容がやや抽象的。
具体的な公共図書館のデジタルアーカイブ事例を示して自分なりに考察しまとめること。

総評:合格

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