【近畿大学図書館司書】図書・図書館史[2022] 合格レポート

設題

日本または西洋のどちらかを選び、それぞれの時代(古代、中世、近世、近代以降)の図書館発展の特徴をコンパクトに要約し、かつ私見(400字程度のまとめ)を述べてください。

解答

■序論
図書館史とは、歴史学的な視点で現在に繋がる図書館の発展を見ることである。
そもそも歴史とは何か? E.H.カー(1962)に拠れば「歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話」(p.40)である。
図書館史においてもまた、今在る図書館との関連の中で、その起源に遡って考えることに他ならない。

本稿では西洋の図書館発展史に焦点を当ててその起源を記述する。

■本論
Ⅰ.古代(~500年頃)
世界最古の図書館は、メソポタミアの古代アッシリアの首都ニネヴェにあった王立図書館である。ここでは楔形文字が刻まれた粘土板図書が網羅的に収集され、主題別に分類されていた。これらの図書は学者にのみ公開されていた。

アレクサンドリア図書館は古代世界最大の知識生産所、学問のメッカとして知られている。この図書館はかのギリシャの哲人アリストテレスがエジプトの王プトレマイオス1世(紀元前357~282)に助言し創設された。
当館のコレクションはパピルス(巻子本)のギリシャ語写本が基本(三浦編,p.11)であり、一説には70万巻を蔵していたという。また、ここに集められた写本は校訂や注釈がつけられ整理された。それをまとめたものが「ピケナス」と呼ばれる文献書誌であった。
この時代において既に目録というメカニズムが機能していた点は特筆すべきである。

Ⅱ.中世(1500年頃~1800年頃)
中世における図書館はもっぱらキリスト教会・修道院が支え、教育や文化の主導権を握り、後世への文化継承の役割を果たした。また、中世後期には都市の興隆や学問の発達により大学誕生の機運が高まったが、キリスト教会がその母体となったのである。
この時代では書写に時間を要すことや教義上の制約により、500冊の蔵書があれば立派な図書館とされた。それはつまり当時の図書一冊ずつが貴重であることを意味し、貸し出すにも厳格な条件を設けたり、鎖付き本での閲覧とされていた。
なお、図書館で所蔵された書物のほとんどは鞣皮本に筆写された冊子本であった(三浦編,p.43)。

Ⅲ.近世(1500年頃~1800年頃)
1450年頃、ドイツのヨハン・グーテンベルクにより活版印刷技術が開発された。これは火薬、羅針盤と共にルネサンス期の三大発明とされ、その後の図書や図書館の在り方を大きく変えていった。
この技術により図書が安く大量に生産可能となり、それまで一部の特権階級・知識階級のみに独占されていた知識が広く民衆へ行き渡る環境を用意した。
その最たる事例がマルチン・ルターによる聖書の翻訳と宗教改革運動である。
宗教改革の前提には、ルターの論文を急速に広めるための活版印刷技術があったのだ。
ただし、伝統的な権威を打倒する運動は、多くの修道院図書館が踏み荒らされ、図書が散逸するという弊害ももたらした。被害を免れた図書はその後、市立図書館や大学図書館へ受け継がれるなどした。

Ⅳ.近代以降(1800年頃~)
活版印刷の浸透と共に、西洋では啓蒙思想が影響力を持ち始めた。つまりキリスト教的な迷信、非合理性から脱し、人々へ「理性」による精神の自由化が呼びかけられた。
こうした時代風潮を受けつつ、ドイツのシュレッティンガーによって、世界で初めて「図書館学」と冠された著作である『図書館学教科書試論』が著わされた。そこでは「単なる図書の集合体であるだけでなく、必要な図書を探し出せるように整理されていることを図書館の要件」(三浦編,p.78)とされた。

18世紀アメリカでは、王侯貴族の図書館や修道院・大学以外の図書館が出現した。
1731年、ベンジャミン・フランクリンは館員が資金を出し合って図書を共同購入する仕組みとして、フィラデルフィア図書館会社を設立し、これは「ソーシャル・ライブラリー」と呼ばれた。
その後、学校区図書館と公立図書館という新たな図書館形態へと主軸が移っていった。
1848年にボストン市が公共図書館建設の特別令を施行した。これが図書館を法的に基礎付けることとなり、市民へ無料で公開される図書館が生まれた。

■結論
図書館史を学習し見えてきたのは、今や当然とされている「無料で市民へ公開される図書館」の登場は、長い歴史の時代ごとの思想を反映してきた結果だということである。
そして現代ではその図書館の機能が世界を覆った「新自由主義」という政治思想により弱まりつつある。
「(1970年代以降の)新自由主義政策は、図書館予算を削減することによって図書館の経済基盤を弱体化させただけでなく、図書館サービスそれ自体の持つ公的な価値を市場原理主義によって変形させた。……新自由主義的な考え方を重視する社会において、リテラシーのスキルが低い住民に対し、自己責任が求められることによって、そうしたグループはさらに弱体化していく実体がある」(吉田・川崎,2018)。
これはアメリカの公立図書館を取り巻く社会環境を描いたものだが、事情は日本でも変わらない。
無料制、公開制、自治体直営の安定的な図書館をいかに再構築するかが現在を生きる我々の課題ではないだろうか。

参考文献

1.図書・図書館史:図書館発展の来し方から見えてくるもの(講座・図書館情報学;12)/ 三浦太郎 編著, ミネルヴァ書房, 2019
2.カレントアウェアネス・ポータル, CA1673 – 研究文献レビュー:図書館史 / 三浦太郎(カレントアウェアネス No.297 2008年9月20日)
3.カレントアウェアネス・ポータル, CA1938 – 研究文献レビュー:新しい図書館史研究 / 長尾宗典(カレントアウェアネス No.337 2018年9月20日)
4.『図書館の権利宣言』および解説文の歴史と現在―全面的検討の時代:2015-2020年 / 川崎良孝著, 同志社図書館情報学, 31:96-142, 2021
5.アメリカ公立図書館を基点とする公共図書館モデルの再検討 / 吉田右子, 川崎良孝著, 図書館界 70(4):526-538,2018
6.歴史とは何か / E.H.カー著, 清水幾多郎訳, 岩波書店, 1962

講評(抄)

・設題のポイントをしっかり押さえ、西洋の図書館史を大変分かりやすくまとめられてる。
・特に初期の図書館が限られた特権階級のためのものから、現代の誰でも自由に使えるものに変化してきたことを理解している内容であり秀逸だった。
・グーテンベルクの活版印刷技術の与えた影響が社会を変えたことをしっかり理解していて好印象。
・また参考文献も充実しており、詳しく学習したことが参考文献情報と内容から伝わってきた。
・欲を言うと現代の内容により言及して欲しかった。
・私見は納得できる内容だった。

※気になる点
・一文ずつ改行せず、段落が変わる時だけにすること。

総評:合格

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