【近畿大学図書館司書】図書館制度・経営論[2022] 合格レポート

設題

組織作りの諸原則の5項目を取りあげ、それぞれについて述べるとともに、図書館法第3条(図書館奉仕)に掲げられている九つの事項の学びから、これらを実現するためにはどのような図書館組織の構築が望ましいか、貴方自身の考え方を含め論じてください。

解答

■序論
 社会とは、大小さまざまな「組織」が有機的に結びついてできている。組織とは、「それぞれの役割を持つ人が集まって、全体がまとまりある構成をすること。その構成された全体」である(『角川類語新辞典』)。図書館もまた、組織である。そして組織は、理念を基に目的が設定されることで、それを達成する手段・戦術を立案できる。
 本稿では、図書館の理念にあたる図書館法第3条(図書館奉仕)及び、それを踏まえた組織作りのための諸原則について述べる。

■本論
Ⅰ.組織作りの諸原則
 組織の目標に向かって人を動かすためには、以下の諸原則が欠かせない。

1.スカラーの法則
 組織の階層構造についての原則である。組織は階層構造とし、上層部から下層部まで、いくつかの階層に分け、階層ごとの責任・権限を明確にし、それによって命令が上から下まで迅速に一貫して流れるようにするものである。各構成員には担当する職務に見合った権限を与え、同時に権限に見合った責任を負わせることで組織は機能する。

2.専門家の原則
 組織の構成員一人ひとりが、自分の部門または業務に特化することで、専門知識と熟練を身につける。各々が自らの担当業務に習熟することで組織全体が効率化する。また、担当業務への習熟は組織における自らの価値を高めるため、生きがい・働きがいに関わる点でも重要となる。

3.命令一元化の原則
 組織内における命令は常に特定の一人から指示・命令を受けるようにする。複数から命令を受けることは、業務を混乱させ、業務能力や効率性を低下させることになる。

4.管理範囲の原則(スパン・オブ・コントロール)
 一人の上司が直接管理できる部下の人数には限界があり、それを踏まえた階層管理体制を構築する必要があるということである。

5.権限委譲の原則
 日常的な定型業務は、基本的には部下に権限(意思決定)を委譲すべきであるという原則である。上司は、否定形化業務やより重要な問題、また例外業務について意思決定すべきである。

Ⅱ.「図書館奉仕」という理念と組織
 次に、図書館法第3条の内容を具体的に実現していくにあたり、前提となる経営主体に焦点を当てて論じる。
 図書館法における図書館とは「公立図書館」「私立図書館」である。図書館法は社会教育法に包含され、社会教育法は教育基本法に包含される。教育基本法における「教育」とは、人格の形成と民主主義の基盤となることを期して行われるとされる。また社会教育法において、図書館は「社会教育のための機関」(第9条)とされ、「社会教育」とは、学校の教育課程外の組織的な教育活動とされている(第2条)。
 すなわち、図書館奉仕とは学校教育課程外の教育を支える中心的な施設として市民へサービスを提供することを指していると言える。
 そのような位置付けである日本の図書館組織で最も多く見られるのは「職能別組織」、すなわち図書館の「働き(職能)」から部門化された組織であり、具体的には総務部、収書部、整理部、奉仕部などのように、図書資料の流れに沿って分けられている。この組織形態では管理コストが低く抑えられる等の長所がある一方で、図書館サービスの専門家が育成できにくい。
 図書館サービス(使命、存在意義といってもよい)は、もっぱら職員の専門性において実現される。例えば、図書館法第3条で挙げられる一項:図書館資料の収集・公開、二項:情報資源の組織化・目録作成、三項:図書館資料に十分な知識を持ち、利用者の相談に応じることが該当している。ここから、主題別組織的な要素を取り入れることが望ましいと考えられる。これは図書資料の主題別に部門化する組織であり、自然科学部門、社会科学部門、人文化学部門、工学部門、医学部門、郷土資料部門、行政資料部門等、特定の主題をもとに組織化する。
 これは先で論じた「専門家の原則」を適応すべき個所である。私見によれば、そのために何よりも重要なのは、図書館職員の安定した雇用形態に基づく経験と知識の蓄積である。
 現状のように、地方公共団体による直営であっても、多くの自治体では司書職の採用制度が確立されておらず、地方公務員の単なる一配属先に過ぎないようでは、高度情報化社会を生きる市民の課題解決に寄与する図書館運営は困難であろう。
 また、階層を一つ下げ、奉仕部門の組織化という観点では、閲覧・貸出部、レファレンスサービス機能(レファレンス質問の処理や利用教育、情報検索、読書相談)、広報機能等に分けることができる。利用者中心の図書館サービスの質は、この奉仕部門をいかに機能させるかを考え組織作りすることに拠るであろう。

■結論
 図書館を組織する上で重要な理念と諸原則および組織形態について論じてきた。
 図書館の適切な組織化は、自治体の規模や財政、人員等の条件を考慮した上で、各図書館の目的や利用者のニーズにできるだけ沿えるような形で実施することが重要である。加えて、その組織は硬直化することなく、極めて早い社会の変化や新技術を迅速に汲み取って変化していける、そのような柔軟性のある組織作りが求められる。

参考資料

1.カレントアウェアネス・ポータル, CA1714 – 研究文献レビュー:日本の公立図書館経営における組織形態 / 小泉公乃(カレントアウェアネス No.303 2010年3月20)
2.カレントアウェアネス・ポータル, CA1878 – 研究文献レビュー:日本の公立図書館における経営形態 / 小泉公乃、德安由希、矢野光華、山田瀬奈、小室祐樹(カレントアウェアネス No.328 2016年6月20)
3.指定管理者制度と公立図書館 : 現状と課題 / 安藤友張 著, 同志社図書館情報学 23:30-57,2013
4.公共図書館の動向-図書館経営論を中心に / 新出 著, 同志社図書館情報学 23:30-57,2013
5.《Ⅱ.館種別状況》公共図書館の動向 ―図書館経営論を中心に(400号記念特集「図書館・図書館学の発展―2010年代を中心に」) / 図書館界 70(1):54-70,2018
6.経営戦略論の構造把握―公立図書館経営戦略策定手法の確立に向けて― / 小野仁 著,愛知淑徳大学大学院文化創造研究科紀要 6:19-36,2019
7.図書館経営におけるブランド戦略の分析 / 松下彩華, 松村敦, 宇陀則彦 著,情報知識学会誌 29(2):129-134, 2019
8.大学図書館職員(司書) 制度の変遷と課題―岩猿敏生の論考を中心に― / 山中康行 著,人間文化研究 11:113-160,2019
9.アメリカ公立図書館を基点とする公共図書館モデルの再検討 / 吉田右子, 川崎良孝 著, 図書館界 70(4):526-538,2018
10.マネジメント : 基本と原則 エッセンシャル版 / P.F.ドラッカー 著, 上田惇生 編訳,ダイヤモンド社, 2001

講評(抄)

(1回目)
よく書けているが、後者の設題理解が不十分。設題に「図書館法第3条に掲げられている九つの事項の学びから」とあるように、九つの事項の学びを前提にして、「これらの九つの事項を実現するためにはどのような図書館組織の構築が望ましいか」を論ずるのが本題。今回のレポート内容は、「図書館法第3条(図書館奉仕)に掲げられている九つの事項の解説と諸原則との関連」に止まっており、本題の「図書館組織の構築」への踏み込みがなされていない。なお、「図書館組織の構築」のキーワードは「図書館組織の種類」と「部門化組織」である。

(再提出後)
よく纏められたレポートになっているが、辞典のみならず、巻末文献からの引用文も欲しかった。

総評:合格

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