【近畿大学図書館司書】生涯学習概論[2022] 合格レポート

設題

生涯学習支援における図書館の役割について、図書館の3要素である「人(司書)」「資料、情報」「施設」の3つの観点から述べなさい。

解答

■序論
生涯学習は、我々が生きる高度情報化社会(=「物」に代わって「情報」の価値に重きが置かれ、その情報が目まぐるしい速度で膨大に発信される社会)に適応し、また課題解決していく上で重要な営みである。
本稿では、図書館の3要素の観点から生涯学習における図書館の役割を考える。

■本論
Ⅰ.人(司書)
図書館法第4条3項において、「司書は、図書館の専門的事務に従事する」と規定されている。つまり、図書館員(特に司書)は、人々の読書・学習・研究に必要な資料を収集し、人々が求める資料や情報を適切に提供する、またはその方法を案内するなど、情報サービスこそが基本的かつ本質的な役割となる。
現代では、図書館業務の知識に加え、IT技術、経営管理能力、その他広域な分野の情報に通じ、地域貢献することが求められている。文部科学省が2005年1月に発表した「地域の情報ハブとしての図書館―課題解決型の図書館を目指して―」では、これからの公共図書館では「司書によるレファレンスや情報検索機能、を核としながら、重層的なネットワークを活用することにより、課題解決型の新しいサービスの提供」が期待され、「ビジネス支援」「行政情報提供」「医療関連情報提供」「法務関連情報提供」などの地域課題の解決支援に取り組むことを挙げいている。
「重層的なネットワーク」には「人のネットワーク」「組織のネットワーク」が含まれていることから、図書館員が役割を果たす上でコミュニケーション能力も当然求められるであろう。

Ⅱ.資料、情報
世界で初めて「図書館学」が冠された著作である『図書館学教科書試論』(シュレッティンガー,1808)では、「単なる図書の集合体であるだけでなく、必要な図書を探し出せるように整理されていることを図書館の要件とした」(三浦編,p.78)。つまり、情報検索の前提となるのは、情報が検索可能なように組織化された上で蓄積されていることである。
伝統的な図書館資料(図書・雑誌等の印刷媒体)の網羅的な収集・提供に加え、現代ではインターネット環境の急速な成長によりインターネット情報資源の扱いも必須となりつつある。これに伴い、公共図書館への以下の新たな役割が求められている。
 ①インターネット端末の設置
 ②情報リテラシーのスキルが低い住民に対するインターネット端末利用機会の提供
 ③リンク集やパスファインダーの整備によるインターネット端末利用の促進
 ④商用データベース(ex.「医中誌Web」「MagazinePlus」「ヨミダス歴史館」)の導入
 ⑤地域資料のデジタルアーカイブ化、公開

2022年現在、世界的な感染症流行の環境的後押しもあり様々なオンライン化が劇的に加速した。それに伴いネットワーク情報資源もその存在感を増した。今後図書館は、今まで以上にこれら仮想的な情報資源をどこまで・いかに・効率的に組織、提供するかの技術的課題に直面するものと思われる。

Ⅲ.施設
社会教育法第9条において、「図書館及び博物館は、社会教育のための機関とする」とされている。図書館は設置者、設置の目的、利用者別に以下の6つの館種に分かれる。
①公立図書館と②私立図書館は共に図書館法によって基本的事項が定められている。あらゆる分野の資料を収集し、一般の人々(幼時から高齢者まで)の教養・調査研究等に役立つことを目的としている点では同じだが、公立図書館は地方公共団体が設置し、無料公開が原則である。一方、私立図書館は一般財団法人または一般社団法人が設置し、入館料等を課すことができる。③学校図書館は学校図書館法の下、小・中・高等学校が設置し、学校教育に必要な資料を収集する。サービス対象者は児童・生徒及び教職員である。④大学図書館は大学設置基準法を法的根拠としており、大学における教育と研究に必要な資料を収集し、学生と大学教員の利用に供する。⑤専門図書館は地方議会や民間企業、学会・協会・団体などを設置主体としており、各館の運営目的に応じて特定の主題に関連した資料を収集する。⑥国立国会図書館は、国立国会図書館法によりその国の国民全員に奉仕する図書館である。納本制度による出版物の網羅的収集、全国書誌の作成、資料保存を行う。
各図書館は目的や主な利用者によって分けられてはいるものの、互いに協力を行っており、全てが生涯学習を支援する機関と言えるであろう。特に、全国の図書館を対象として所蔵資料の貸出とレファレンスサービスを行いバックアップする国立国会図書館の役割は重要である。
一方で図書館の利用は社会「教育」における「学習」に包含される、という点は十分に理解されているとは言えない状況にある。従って今後公共図書館は公民館・博物館との連携や協調を進めつつ、図書館の役割の積極的な広報等に取り組む必要があるだろう。

■結論
「人生100年時代」と言われる昨今、生涯学習支援施設としての図書館の役割は今後も重要度を増していくものと思われる。他の社会教育施設との連携を強化し「課題解決型の新しいサービスの提供」へより一層の変革が期待される。

参考文献

1.生涯学習におけるサービス品質:公立図書館のサービス品質が高齢者の学習満足度に与える影響 / 間島羽奈子 著, JSMDレビュー 5(1):9-16,2021
2.生涯学習施設としての公共図書館 ― 「体験」は図書館サービスなのか ― / 日向良和 著, 都留文科大学研究紀要 86:161-173,2017
3.アメリカ公立図書館を基点とする公共図書館モデルの再検討 / 吉田右子, 川崎良孝 著, 図書館界 70(4):526-538,2018
4.図書・図書館史:図書館発展の来し方から見えてくるもの(講座・図書館情報学;12) / 三浦太郎 編著,ミネルヴァ書房,2019
5.カレントアウェアネス・ポータル, CA1668 – 研究文献レビュー:学習・教育基盤としての図書館 / 米澤誠(カレントアウェアネス No.296 2008年6月20日)
6.カレントアウェアネス・ポータル, CA1728 – 研究文献レビュー:図書館の「広報」は進化しているか? ― 説明責任と自己アピールの時代に求められる理論と実践 ― / 仁上幸治(カレントアウェアネス No.305 2010年9月20日)
7.地域の情報ハブとしての図書館 / 文部科学省
 https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/05091401.htm(参照 2022年5月11日)

講評(抄)

①このレポートでは生涯学習支援における図書館の役割について3つの観点から述べてよ。

最初の設題は、図書館の「司書」として、どのような生涯学習支援ができるかを述べる。ここでは「新しい公立図書館像」や「公立図書館の基本的な役割」、「専門職員としての司書」の視点を押さえることが大切ですが、ここはこれでよい。幅広い視点から述べられている。

二つ目の設題は、「資料、情報」の視点から生涯学習支援における図書館の役割について述べる。ここでも「公立図書館の基本的な役割」「公立図書館と情報技術」の視点を盛り込むことですが、ここもこれでよい。図書館の情報化に対応した取り組みについて述べられている。

最後の設題は、各種の図書館「施設」として、どのような生涯学習支援ができるかを述べる。ここでは「生涯学習と図書館」「図書館の種類」「社会教育施設としての公立図書館」の視点を踏まえて述べることだが、図書館の館種による生涯学習支援についてもっと詳しく述べよ。館種ごとに述べるとよい。

最後に、これら3つの観点を踏まえ、図書館の役割としての総括的な生涯学習支援を述べるとよい。

(再提出後↓)

②最後の設題は図書館の館種による生涯学習支援について述べられている。これでよい。それぞれの図書館が直接的間接的に生涯学習支援を行っている。結論で述べている通り、図書館の変革が求められている。地域の課題を解決するためレファレンスサービスがもっとも重要。

総評:合格

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