【近畿大学図書館司書】情報サービス論[2022] 合格レポート

設題

図書館利用教育の実施のために必要な環境整備にはどのようなものがあるか、それぞれについて簡潔に述べるとともに、図書館利用教育をさらに浸透させるためには、どのような工夫が必要か、最近の動向も踏まえ、貴方自身の考え方を含め論じてください。

解答

■序論
情報(提供)サービスの中心は「レファレンス業務」である。
レファレンスサービスには「質問の処理」「読書相談」「情報検索」等があるが、ここでは「図書館利用教育」に焦点を絞り記述する。

■本論
我々が生きる高度情報化社会、すなわち「物」に代わって「情報」の価値に重きが置かれ、その情報が目まぐるしい速度で膨大に発信される社会では、情報入手のための調査法を知り、情報を適切に取捨選択する能力が必須となりつつある。そのような時代の要請に応えるために図書館利用教育を積極的に展開していく必要がある。

Ⅰ.図書館利用教育の実施のために必要な環境整備
利用教育を実施のするためには主に以下7つの環境整備が必要である。

(1)組織的に行う
これが最も重要で、かつ図書館利用教育を実施・発展させるための大前提である。図書館におけるあらゆる業務は属人化させるべきではなく、詳細な手順やノウハウを共有・マニュアル化し、個人の能力あるいは担当者の変更等によってサービスの質に著しい差が生じないよう、組織的に業務を行う必要がある。

(2)予算措置をする
利用教育を実施するための環境整備には当然予算措置が必要である。予算を確保するためには一個人が要望するのではなく、「図書館」としての存在感を強調する必要がある。そのためには業務が組織的・制度的でなければならない。

(3)教員との連携をはかる
大学・学校図書館における利用教育は、図書館の活用が生徒・学生の学習あるいは研究にとって有用であることを知ってもらうための教育支援である。教育支援という性質上、教員との連携があってこそ学生への効果も高まる。

(4)利用教育実施マニュアルを作成する
利用教育実施担当者が複数いる場合、内容に著しい個人差がでないようにするため標準化されたマニュアルを作成する必要がある。

(5)館員研修の実施
マニュアルに基づいた利用教育実施のためには館員研修の機会を設けなければならない。

(6)レファレンスツールの充実
利用教育の前提となるのは、図書館に蔵書されるレファレンスツール、すなわち辞典・事典、便覧、年鑑、統計集、書誌等の基本的文献やデータベースである。レファレンスツールが十分整備されていなければ利用教育の効果を上げることができない。
レファレンスツール拡充のためには(2)で述べたように予算措置が必要となる。
図書館の規模によっては自館でレファレンスツールを充実させることが難しい場合もある。そのような状況では他館との相互協力が可能であること、また他館の蔵書を利用可能であることを示唆する。

(7)映像メディアの利用
現代では映像・音声メディアを日常的に利用する人が多い。そのような時代状況を受け、映像メディアによる利用教育を実施する図書館が多い。日本図書館協会刊行の「図書館の達人シリーズ」購入等により、DVDを自作できない図書館の経済的問題も解決されている。近年は映像メディアのプラットフォームが成熟してきたことも
あり、ライブ撮影した動画を配信する館が増加している。

Ⅱ.図書館利用教育をさらに浸透させるための工夫
私は現在大学職員として勤務しているので、大学図書館における利用教育について考える。
米澤誠の研究文献レビュー(2008)では以下のように述べられている。
「大学図書館における利用教育の状況は、図書館利用ガイダンスが1,338大学図書館中495館実施(約37%)で1館平均288.9名参加、データベース検索等講習会が383館実施(約29%)で1館平均111.0名参加となっている。一方、文献検索講習会が566館実施(約42%)でありながら、1館平均1.7名参加という状況になっている。利用教育の実施率は高まっていながら、大学図書館における従来型の文献検索中心の利用教育は、完全に利用者離れを起こしているといってよかろう。情報探索法中心から、レポート作成法を起点とする情報リテラシー教育への転換は、これからの大学図書館の課題なのである。」
現代における図書館利用教育では単なる文献調査法(=欲しい本の見つけ方)に終始していては魅力に乏しいと言わざるを得ない。
上記で述べられているように「情報リテラシー教育への転換」、すなわち“課題解決のための情報へ適切かつ効率的にアクセスするための技術”を提示することが求められている。
そもそも、利用教育を「浸透させる」には、実施する側への浸透とそれを受け取る側への浸透両方が考えられるが、個人的には後者を優先したい。なぜなら、人々がまず「図書館」「情報探索」「課題解決」それ自体に関心を持つ社会的風土がなければ、利用教育の効果を上げようがないと考えるためである。
そのため、然るべき知識・手順とノウハウを獲得しなければ辿り着けない情報がある、ということを徹底して社会に向けて発信することが重要なのではないだろうか。

■結論
利用教育実施のための環境整備について述べてきた。
「本」というメディア自体が斜陽となりつつある現代的状況の中で、それでもなお図書館利用には価値があるこ
とを伝えていくためにはどうしたらいいか、という問題は今後も追求したい。

参考文献

1.Rowe, jennifer., et al. The Impact of Library Instruction on Undergraduate Student Success: A Four-Year Study. C&RL , 82(1), 2021, p. 7-18.
2. カレントアウェアネス・ポータル, CA1668 研究 – 研究文献レビュー:学習・教育基盤としての図書館 / 米澤誠(カレントアウェアネス No.296 2008年6月20日)
3. 大学生のための知的技法入門 / 佐藤望編著 ; 湯川武, 横山千晶, 近藤明彦著. 第3版. – 慶応義塾大学出版会, 2020
4. 図書館が教えてくれた発想法 / 高田高史著. – 柏書房, 2007.

講評(抄)

学習・理解はよくできています。論述内容、参考文献の活用も評価できます。なお、最近の動向が弱くなっているのが残念です。

総評:合格

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