【近畿大学図書館司書】図書館情報資源特論[2022] 合格レポート

設題

灰色文献とはなにか、灰色文献の定義や意義、特性について記述してください。また、灰色文献と言われる具体的な資料名を挙げて、その資料の特徴についても説明してください。

解答

■序論
 本稿では、公共図書館が収集し提供する情報資源のうち、「灰色文献」に焦点をあて、その定義や意義および特性について、具体的な資料名と共に論じる。

■本論
(1)灰色文献の定義
 灰色文献とは、一般の商業出版ルートでは入手が困難な文献である。流通経路が不明確で、限定された部数しか作成されない、配布先が限定されているなどの特徴を有している。
 しかし歴史的に見れば、その定義にも様々な変遷がある。池田(2015)が整理している定義から国際的レベルで代表的な2つを引用する。

【ニューヨーク・ルクセンブルク定義】(2004)
 紙や電子フォーマットで, 政府, 大学, ビジネス, 産業のあらゆるレベルにおいて生み出されるもので, 商業出版社によってコントロールされない。すなわち, 主たる活動が出版を本業としない組織によってコントロールされている。

【プラハ定義】(2010)
 知的財産権により保護された紙や電子のフォーマットで, 政府, 大学, ビジネス, 産業のあらゆるレベルにおいて生み出される多様なドキュメント形態で, 図書館所蔵や機関リポジトリで収集, 保存される十分な質をもつものを表す。しかし, 商業出版社によってコントロールされているのではない。主たる活動が出版を本業としない組織によってコントロールされている。

 前者の定義では、出版・刊行する組織体および資料媒体、アクセス困難さが強調されている。後者の定義ではそこに、収集・保存されるに足る一定の品質を有しているべきであることが加えられている。

(2)灰色文献の意義と特性
 灰色文献の主な特徴として次の4点があげられる(池田,2010)。
  1.通常の市販ルートに乗ることがない
  2.検索の手段がなく確認しがたい
  3.限定された部数しか作成されない
  4.配布先が非常に限られている
 上記の特徴から、不特定の読者が利用することを想定していない資料であることがわかる。そのため、書誌事項も明確でない場合が多くなっている。しかし裏を返せば、入手が困難であるがゆえに未開拓な情報資源の鉱脈とも言える。ここに灰色文献を収集する意義がある。これをイタリア上級衛生協会のPaola De Castro 氏は次のように表現したという。
 「『灰色文献』は,出版物のシンデレラのような存在。価値があるのに,灰をかぶっている」(池田,2015)

(3)灰色文献の種類と特徴
 以下では、灰色文献の種類と特徴を個別に見ていく。

1.政府刊行物
 国家機関が立法・行政あるいは広報のために作成、発行した資料の総称である。各府省が発行する調査報告や白書、最高裁判所判例集といった行政および立法にかかわる資料、文部科学省による「文部科学広報」等が該当する。

2.地方自治体が作成した資料
 地方自治体レベルで作成された白書、都道府県や市区町村が作成した報告書や統計、計画等がある。

3.テクニカルレポート
 民間のシンクタンク、調査研究機関、研究グループが成果を報告するために作成し、所属機関の内部や同じ分野の研究者に配布される研究報告書を指す。速報性が高い点が特徴。

4.学位論文
 学位(博士)を得るために大学に提出された論文で、オリジナルな成果を含むことが多い。文部省令「学位規則」第9条において、「博士の学位を授与された者は、当該博士の学位を授与された日から一年以内に、当該博士の学位の授与に係る論文の全文を公表するものとする。」と定められている。これを受け、近年は機関リポジトリを通じて学位論文を全文公開しているケースも多い。国立国会図書館のシステムでは、特定のメタデータフォーマットに準じて公開された博士論文を自動収集している。

5.企業文献
 企業が社内や消費者を対象にイメージを高めるために刊行する資料を指す。代表的なものは社史や広報誌である。

6.会議録
 学会などの会議上で発表された論文、あるいはディスカッションの記録がまとめられた資料のことである。

7.その他
 現代においては上記以外に、ブログ、Webサイト、ソフトフェア、電子テキスト等も灰色文献の範疇に含まれるようになってきている。インターネット上で数多くの情報や資料が公開されることにより,灰色文献のアクセシビリティは改善または向上している。一方で、インターネット上の情報は、その時点で全文情報が閲覧・ダウンロードできる状態にあるに過ぎず、恒久的なアクセスが保証されているわけではない。提供側の都合による公開の取りやめ、URL のデッドリンク、サイトの閉鎖等で突然その情報源へアクセスができなくなる可能性もはらんでいる。

■結論
 2022年現在、世界的な感染症流行の後押しもあって様々なレベルでオンライン化が劇的に加速した。それに伴いデジタルコンテンツもその存在感を増した。今後図書館は、今まで以上にネットワーク情報資源をどこまで・いかに・効率的に組織するか、そして利用者と灰色文献を結び付けていくかの技術的課題に直面していくものと思われる。

参考資料

1. 灰色文献をめぐる動向 灰色文献国際会議の議論を中心に / 池田貴儀 著, 情報管理 53(8),428-440,2010
2. 問題提起 : 灰色文献定義の再考/ 池田貴儀 著, 情報の科学と技術 62(2),50-54,2012
3. インターネット時代の灰色文献 灰色文献の定義の変容とピサ宣言を中心に/ 池田貴儀 著, 情報管理 58(3),193-203,2015
4. カレントアウェアネス・ポータル, CA1952 – 灰色文献のいま~2010年代の動向を中心に~ / 池田貴儀(カレントアウェアネス No. 340 2019年6月20日)

講評(抄)

灰色文献の定義や特徴ついて記述できている。
近年の灰色文献では、各資料は一部ウェブで公開されているものもある。どのようなデータベースで閲覧できるのか調べて具体的に記述するとさらに良くなった。

総評:合格

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